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悪人
吉田 修一
朝日新聞出版
¥ 567
(2009-11-06)

吉田 修一
朝日新聞出版
¥ 567
(2009-11-06)


九州地方で、珍しく雪の降ったある夜、
福岡市内に住むOL、石橋佳乃が、三瀬峠の山中に遺体で発見された。
まず容疑者に挙げられたのは、地元の大学生である増尾圭吾。
だが、増尾の証言と現場の状況が食い違うことから、
真犯人は、長崎市内に住む土木作業員、清水祐一だと判明する。
祐一は、石橋佳乃と出会い系サイトで知り合い、
福岡県庁に併設された、東公園で待ち合わせをした後、
三瀬峠で犯行に及んだ模様。
祐一はその後、別の女性と逃亡をはかっており、
警察では、その行方を追っている。

+++++++++++++++++++++++++++

「俺、もっと早う光代に会っとればよかった。もっと早う会っとれば、こげんことにはならんやった‥」

土木作業員の祐一は、長崎市内で、年老いた祖父母と暮らしている。
幼い頃に母親に捨てられ、祖父母の養子となった祐一は、
建築現場で働きながらも、年老いた祖父母の手伝いをしている。
そんな祐一を、犯行に奔らせたものとは一体何だったのか?
読み始め数頁のところで、山中に被害者の遺体が発見される。
だが文中に、犯行の場面は一切描かれていないので、
その時点ではまだ、真相がはっきりとしていない。真実は闇の中だ。

本当に祐一は、犯行に及んだのか?だとしたら、何故?
前半部分の読中の興味は、その一点に絞られた。
遺体が発見された、という事実に沿っていく形で、
事件を取り巻く人物達が次々に登場し、主観が目まぐるしく移り変わる。
その人物達の目から見た、容疑者、被害者の素顔。
だがそこから、祐一の心の内が明かされる事は、決してない。

謎を抱えたまま、物語は次の局面に移行する。祐一と光代の出会いだ。
そこから物語は、大きく唸りを上げて展開していく。
二人が出会う事によって、生み出されたその感情は、
どこか狂おしくもあり、とても純粋で儚いものだ。
それが読み手に共感を呼び、切なさを与える要因になっているのだろう。
果たして二人が、逃避行の先に見たものとは‥。 


「‥でもさ、どっちも被害者にはなれんたい」
 
結局、悪人とは一体誰だったのか?
それは、人々の中に潜む、悪意だというのだろうか?
誰もが心に宿す些細な感情、妬み、卑しみ、蔑み、寂しさ、孤独感。
悪人になる要素は誰もが平等に持っている、という事かもしれない。
この世の中、少しボタンを掛け違えただけで、
日常を歪ます危険性が溢れ返っているのだ、とも気付かされる。

そして、現代に生きる人々の、鬱屈とした日常の姿。
このあやふやな感じを表す、著者の筆力は秀逸だ。
事件から浮かび上がるのは、人々が普遍的に抱える問題だろう。
その徹底したリアリズムが、心に響いてくるのだ。

祐一が抱えていた、優しさと弱さ。それが事件の根底に繋がる。
もしかしたらそれは、紙一重なものなのかもしれない。
優し過ぎる心は、ときには罪にもなり得るのではないだろうか?
だが祐一が最後にとった行動は、強くて儚い優しさだった。
その強さは、光代と出会った事により、祐一が手に入れたものなのだろう。
この物語によって、一人の人間が回りに与える影響がどれ程大きいものなのかを、改めて考えさせられた。

出会いは、人を大きく変える。
人は、善人にも、悪人にもなれる。

傑作◎



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