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三浦 しをん
新潮社
¥ 860
(2009-06-27)
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"お正月" のイメージと言われると、
未だ、頭の片隅に浮かんでくるものがある。
東京箱根間往復大学駅伝競走、
通称
「箱根駅伝」
自分は、
国道1号線のすぐ傍に住んでいる。
物心がついた幼い頃から、その大会は既に行われていて、
よく親に連れられて、観ていたことを覚えている。
この辺りに住む人々にとって、
お正月=箱根駅伝 は、なんとなくだが、繋がっているもの。
それは、大人になった今でも、変わる事はない。
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清瀬灰二(ハイジ)は、竹青荘に住む大学4年生。
大学生活最後の春。彼は、衝撃の出会いを果たした。
それは、蔵原走(カケル)との出会いだった。
カケルの走りを見て、ハイジは確信する。
「夢が叶えられるかもしれない」
ハイジは、来年の正月に行われる、
箱根駅伝を目指していた。
カケルを含めて、ついに10人揃った竹青荘の住人たち。
ハイジは住人の面々に夢を語り聞かせ、強引に説得を試みると、
半ば強制的に誘いだし、みんなで頂点を目指そう!と意気込む。
だが、ハイジとカケル以外の8人は、陸上競技とは縁のない普通の大学生。
果たしてこんなメンバーで、本当に箱根を目指せるのか?
彼らたちの、飽くなき挑戦が始まろうとしていた‥。
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2009年、正月。
久しぶりに、箱根駅伝を観戦した。
ここ数年は、(十数年?)元旦の酒盛りが原因で、見逃していたのだ。
ランナーたちの走る速さに、
「やっぱり、はえ〜ぇ!」と舌を巻く。
彼らの息遣い、鼓動が、観ているこちら側にも伝わってきて、
沿道の熱気は、
真冬であっても最高潮!だ。
心を震わせる躍動感は、子供の頃と比べても、何一つ変わっていない。
変わった事といえば、それは自分が朝から酒臭い事ぐらいだ。
本書、
風が強く吹いている では、
即席の陸上部、素人同然の面々が、箱根の頂を目指す事になる。
文中でも語っているように、そんな生半可な心持ちじゃあ、
箱根を目指すことなんて、とてもじゃないけど無理だろうし、
現実的じゃないだろう。
でも、始める前から諦めていたら何も出来ない。
夢を持って、挑戦することに意味があるんだ!
って、ハイジに無理やり乗せられた竹青荘の彼らのように、
思わず読み進めてしまう面白さが、確かにあるんだよな。
物語序盤の辺りは、まるで女性向けの漫画のような展開。
(そういうのは、読んだこともないけど)
少なからず、
硬派なスポ根ものを期待していた自分は、
ちょっと肩透かしを食わされた感じもした。
けどそんな思いも、記録会が始まる頃には吹っ飛んでいく。
とくに、レースシーンは読み応えがあって、臨場感も抜群。
自分の中では、徒競走<
リレー、マラソン<
駅伝 だ。
いくら個人の戦いだといっても、襷によって一体感が伝わってくるから。
本書でも、仲間たちとの絆の深さ、人間としての成長の過程、
人と人との繋がりが、優しく丁寧に描かれているから、
読んでいて、颯爽とした気分にさせてくれる。
本大会に進んだ彼らが、一体どうなったのか?
あとは、ゴールを求めて躓くことなく、読み進めるだけだった。
中でも、復路の箱根〜大手町の間は、
実際の復路のレース同様の
スピード感があって、まさに一気読み。
駆け抜けたその後には、
清々しい余韻が心に残っていた。
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この小説が刊行されたときから、
読みたい!とずっと思っていた。
文庫派の自分はそれまで我慢、と心待ちにしていて、この度やっと文庫化。
箱根のランナーを見習って、
ジョッグで書店へと駆け出した。(
嘘)
自分はきっと、来年の正月も箱根駅伝を観るだろう。
その時、この物語と彼ら10人の姿を、何処かで思い浮かべるかもしれない。
元旦の酒を、少し控えようかと思っている。